漫画家まどの一哉ブログ
「19世紀ロシア奇譚集」
「19世紀ロシア奇譚集」
(光文社古典新訳文庫・高橋知之 編・訳)
怪異・幻想文学の知られざる佳作小品を9編収録。
アレクセイ・トルストイは以前「吸血鬼」を面白く読んで、この吸血鬼とは実は感染症のことではないか?と思った記憶がある。今回の作品はいささかふざけすぎている。ソロヴィヨフ「どこから?」、アンフィテアトロフ「乗り合わせた男」この2編の幽霊譚は短いながらもでゾッとするもの。レスコフ、ツルゲーネフはさすがに面白かった。
レスコフ「白鷲ー幻想的な物語」:県知事の職権濫用を調査に向かった平凡な役人イリイチ。現地でヒーロー的な人気の若手役人ペトロヴィーチの補佐を受ける。この若手が突然死してイリイチのせいにされるが、それが邪眼によって睨んだためとのこと。この邪眼という行為がどんなものか一切説明されない。そして幽霊譚となるのだ。レスコフ作品は話が派手でも語り口は落ち着いていて安心する。
ツルゲーネフ「クララ・ミーリチ 死後」:中編小説。読者の感情を掴んで放さない動的な文体の面白さ。ドラマティックで大いに興奮した。クララという女性が類を見ない人格であり、恐ろしいまでの情念で青年アラートフを見初め、あげく彼を非難して死んでしまう。何を考えているのかさっぱりわからない。ツルゲーネフの独創的な人物造形だろうか、読んでいるほうが魔法にかけられたようだ。この女性にかかっては(しかも霊体)初心な青年アラートフの悲劇は免れない。
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