漫画家まどの一哉ブログ
「黒い時計の旅」 スティーブ・エリクソン
読書
「黒い時計の旅」スティーブ・エリクソン 作
「黒い時計の旅」スティーブ・エリクソン 作
ドイツが先の世界大戦を制しヒトラーが生き続けている世界。インディアンの血を引く屈強な大男で乱暴者の主人公だが意外にも筆がたち、ヒトラー1人のために小説を書き続けて報酬を得ている。しかも兄弟を殺してアメリカからウィーンに逃げているという破格の設定。
この主たる物語以外に観光地の島で連絡船を操る青年とその母親の数奇な運命など、時代を遡って遠く主人公の運命に絡み合う人々の人生もふんだんに描かれ、尚且つ主人公が創作上想像した人間も、そこにいるかのように同等に扱われたりするので、作品世界は巨視的というよりもやや茫漠と広がった印象がある。
ストーリーがそんなにないのは一向に構わないし、運命に翻弄され彷徨える人間たちの描き方も充分読み応えがあるのだが、なにか快感というところまで至らないのは、あまりに多くを描きすぎているからではないだろうか。アメリカとオーストリアのみならず、イタリアやメキシコまで行かなくてもいいじゃないか。この作品は失敗を含みながらかろうじて成立しているんじゃなかろうか。
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