漫画家まどの一哉ブログ
「父の娘」たちー森茉莉とアナイス・ニン 矢川澄子
「父の娘」たちー森茉莉とアナイス・ニン
矢川澄子 著
(新潮社・1997年)
父、鴎外の溺愛を受けて育ち、鴎外が亡くなった年齢から作家となった森茉莉。離れた父親に見つけてもらうために日記を書き始め、やがて性愛に至るアナイス・ニン。「父の娘」として生きた二人を追う。
森茉莉が好きで読み始めたが、恥ずかしながら著者矢川澄子のことをよく知らず、その知性あふれる格調高い文章に驚いた。短いものでも脳内に電流が走る思いだ。
森茉莉は54歳でデビューした初めから森茉莉以外の何者でもない完成された世界を持っていて、これも全て鴎外に溺愛され完璧なる幸福で満たされた世界で育ち、びくともしない自己肯定感を得た結果である。過保護がこれほど人生にプラスになっている例はめったにないのではないか。そもそも我々凡人とは環境が違うが、鴎外亡き世界に不安はなかったのだろうか。
アナイス・ニンも自分は全く知らず、その世界文学の名作とされる日記作品を読んでみなければなんとも言えない。ただ父親を慕うあまり近親相姦者となり、同時に多数の男性とも関係を結んでいく奔放な生き方にはあまり関心が持てない。
「父の娘」といえばそうだが、森茉莉とあまりに違い、併録する必要はなかったのではないか。
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