漫画家まどの一哉ブログ
「無限」 ジョン・バンヴィル
読書
「無限」 ジョン・バンヴィル 作
「無限」 ジョン・バンヴィル 作
アイルランドの郊外に建つ古い屋敷で、病床の老学者アダムがまさに死を迎えようとしている。アダムの死に際して集まってくる人々。残されようとしている妻、息子夫婦、孤独な娘、娘が思いを寄せる男、使用人達、そして神様。この話の語り手はなんと神様ヘルメスで、その父ゼウスも登場するが、ゼウスは人間の女にしか興味のないエロ親父。家族の息子の身体を借りてその妻とセックスすることができるのだ。ヘルメスはなにがおもしろいのか、家族ひとりひとりの行動を追ってなりゆきを見物しているといった次第。
この平凡な人々のなかでいちばん魅力的なのはチビで痩身の娘ピートラで、頭を坊主刈りにして世間との交渉を避けて暮らし、この世で人間のかかる病気を全てノートに記述しようとしているリストカッターである。また飼い犬のレックスも健気に家族の動向に気を配っているのだ。不思議なのはふらりとやって来た老学者アダムのかつての同僚ベニー・グレースで、こいつはどうやら神様の仲間であるらしく、その目的も謎のままである。
そんな設定でなにが起きるかといえばなにも起きない。ただ静かに時が過ぎ行くが、自然の風景も内面の描写も抑えた筆致で美しく書かれている。わずかな起伏といえば、病床の老学者が前妻を亡くした頃に傷心のままベネチアを旅する回想シーン。もの哀しくて良かった。
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