漫画家まどの一哉ブログ
「死んでから俺にはいろんなことがあった」 リカルド・アドルフォ
「死んでから俺にはいろんなことがあった」
リカルド・アドルフォ 作
(書肆侃侃房・木下眞穂 訳)
とある犯罪で捕まることを恐れ、妻子をつれて国を離れ異国の島に逃げた男。言葉が分からぬまま夜の街で迷い、なんとかバスを乗り継いで家に帰ろうとするが…。
世界中にあふれる不安定な立場の移民たち。不法滞在とは一口に言えないさまざまな事情があろうが、この主人公夫婦の場合言葉がわからないというのが致命的である。主人公の男は悪い奴ではないが、現実判断につねに運とか勘が混じっており、ちょっとしたトラブルを大惨事や大悪事の予兆と捉えて、すぐ行動を変えてしまう。例えばせっかく乗ったバスを降りてしまう。この非合理・非科学的な行動がすべての事態悪化の原因であろう。
彼の妻はたくましい現実的な女性だが、根本的に彼を愛しているので、この夜の放浪に付き合ってしまっても致し方あるまい。それだけこの二人はいい夫婦で好感が持てる。致命的なケンカには至らず微温的な状態なままなのもよい。
コメディだがブラックな印象はなく、移民政策の矛盾や弥縫作が根底にあるのだろう。とは言っても本人たちのいい加減さは人間の限界で、つまり人間とはこんなもんだろうと思わせる。
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