漫画家まどの一哉ブログ
「原民喜戦後全小説」 原民喜
「原民喜戦後全小説」
原民喜 作
(講談社文芸文庫スタンダード)
最愛の妻を亡くし、その後郷里広島にて被爆。生活者であり文学者である自身の苦闘を、彫琢された文章で綴る。
ここにまとめられた作品はほとんどが自身の体験を綴った実話小説である。といっても私小説とは真逆の内容。自分をモデルに内心を告白するようなものではなく、あたかもドキュメンタリー作品の如く容赦ない身の回りの現実をルポする。この世の役に立たない人間として自覚する自身の、精一杯な生きるための格闘が描かれる。
「夏の花」:「夏の花」「廃墟から」「壊滅の序曲」の三部作で構成される8月6日前後の広島の様子。「壊滅の序曲」のラストで原爆投下40時間前。
「美しき死の岸に」:最愛の妻が亡くなるまでの悲しく美しい思い出の数々。妻が病を得てからの二人を、ここまで丹念に追っていった作品は他に例を見ないのではないか。妻なくては他に世の中との接点を持てない人間だったとはいえ、あまりにも切ない。
「原爆以後」:再び単身首都圏へ戻った作者だが、経済的自立への道は険しく、とくに住まいに関しては考えられないくらい苦労している。ここまで不安定だったとは後世の我々も思い及ばなかったところ。作者自身そうまでして生きていく意味は感じていなかったのかもしれない。
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