漫画家まどの一哉ブログ
「有島武郎」ー地人論の最果てへ 荒木優太
読書
「有島武郎」ー地人論の最果てへ
荒木優太 著
(岩波新書)
小説・評論及び論争をたどりながら、有島の揺れ動く社会観・人間観を跡付けていく好著。
有島武郎は「カインの末裔」を読み返し、その他小品をすこしばかり読んだだけだが非常に好印象で、自分にとっては常に気になる存在である。
印象としては真面目で純粋、理想主義を簡単には捨てない作家。ところがこうやって種々作品の背景を解説されると、案外世の中の動きや階層間の矛盾など、社会的な視点が大きいようで自身の無知と淺読みを知らされる思いだ。
たしかに「カインの末裔」でも明らかにそれはあるのだが、主人公のきわだって特殊な人格の描写に飲み込まれてしまって、背景にまで目が届かない。さらに情景描写も美しく完成されていて下部構造に気づかなかった。しかしすべての作品の根底には、作家自身の恵まれた出自と正義感との相克があるのだから、有島特有の社会観から成り立っているわけで、今回はそこのところを思い知らされた。
ところで岩野泡鳴や本間久雄との論争などは、結論を言い合っても不毛な気がする。どうだっていじゃないか。実際有島本人も長い人生の中で揺れ動き、発言も作品もはっきりとは定まらないがそれがふつうだから。と、100年経てば言える。
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