漫画家まどの一哉ブログ
「鉄の時代」 J・M・クッツェー
読書
「鉄の時代」 J・M・クッツェー 作
(河出文庫)
以前読んでいたことに気づかず再読。
過去日記がよく書けていたのでそのまま再掲する。
(mixi過去日記)2012.08.16アパルトヘイト廃止直前、騒乱の南アフリカ。癌を抱えて死を目の前にしながら、一人留まり続ける白人老婦人のモノローグ。はるかアメリカに移住した愛娘への手紙という体裁で語られる。
長年にわたって築かれた白人による支配を恥じることによって矜持を保つ老婦人カレン。しかし現実は彼女の思惑を越えて、強烈なしっぺがえしを与え続ける。反アパルトヘイト闘争のなかで、政府・警察によって追われ、殺される黒人少年たち。彼らは戦いの絆の中で死をも厭わないが、それは人間としての感受性を全て放棄した悲しい鉄の心だった。
物語は、ある日主人公カレンの家にふらりと現れたホームレスの男との、奇妙な同居生活を中心に進む。彼にとってはこの騒乱も存在しないかのごとく、ただだらしない日常がつづくのみである。
こう書くとまるで社会派小説のようだが、主人公の語り口はあまりにも個人的で、詩的言語の連続であり、人生そのものに対する深い洞察が、イメージのまま語られるので、まったく社会派小説ではない。でないと自分は読まない。
と、ここまで(mixi過去日記)の再掲であるが、今回読んでみると立派な社会派小説であり、そのうえ主人公カレンが語りすぎることにより、容赦ない現実とかけめぐる内心の相乗効果が生まれて行く。これぞ小説の醍醐味ではあるまいか。
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