漫画家まどの一哉ブログ
「最後の恋人」 残雪
読書
「最後の恋人」 残雪 作
「最後の恋人」 残雪 作
残雪の2004年作長編処女作。まさに全編を通して悪夢の中を連れていかれるようで、抜け道は無く息継ぐ隙も無い。夢だからこそあり得るような非合理ばかりが連続して、それでも登場人物達の運命は流れていく。
短編ならまだしも長編でこの世界に浸るのはかなりな労力が要った。この息苦しさはちょうど水泳を習っているようなもので、はじめは苦しいが呼吸に慣れてくると意外にスイスイと進むものだ。残雪の世界に慣れてしまえばスルスルと読める。この感じはルーセルの「ロクス・ソルス」を読んでいた時に感じた濃密なシュールレアリスム空間の読書体験と同じだった。
登場人物はアパレルメーカー経営者ヴィンセントとその妻リサ。優秀な営業社員ジョーと妻のマリア。ゴム農園農場主のリーガンと愛人アイダ。これらの愛し合う人々の離合集散が描かれて最後の恋人となるわけだ。なかでもジョーは読書家で、今まで自分の読んだ物語を全部繋げて、頭の中で壮大な物語地図を描こうとする男だ。
南方のゴム園、北方の牧場、東方の塔、そして賭博城。主人公達の様々な旅の中で不思議な出会いが繰り広げられていく。その幻想的な内容をひとつひとつ紹介してもキリがないのでやらないが、なんども読み返せばもしかしたら、そこから象徴主義的な寓意小説的な意図を読みとってしまうかもしれない。しかし自分はそれは読み過ぎだと思う。ただ味わえばよい。
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