漫画家まどの一哉ブログ
「日本SF短編50 vol.5 1993ー2002」
日本SF作家クラブ 編
10人収録されているが、北野さんのものを数作読んだことがあるだけ。これで自分も現代SF経験が積めるぞ。
大槻ケンヂ「くるぐる使い」は悪い意味で文章がトッ散らかっている。宮部みゆき「朽ちてゆくまで」はさすがにベストセラー作家だけあって、さらさらと読みやすい文章で、文体に統一感があるのが大槻ケンヂの流れの悪い文体の後に読むとよく分かる。とは言ってもストーリーが解るというだけの文章で、鑑賞すべきところはない。いかんせん冗長過ぎて、日常生活の描写などいらないから半分のボリュームにしてほしい。
上記2作や篠田節子「操作手」にも介護ロボットが出てくるし、たしかにSFなのだろうが、自分としてはどうも違う。菅浩江「永遠の森」は博物館惑星でのバイオ・クロックなる最先端科学を駆使した話で、こういうのがSFだという先入観を自分は持っている。だがここに登場する学芸員スタッフを海外ドラマやアニメ化すれば、スカした声優達が繰り広げるお決まりの人物造型しか思い浮かばない。藤崎慎吾「星に願いを ピノキオ2076」もバイオコンピューターに寄生して生き延びようとする人工知性のはなしで、SFエンターテイメントの王道をいくようなおもしろさだった。
以上の作品より群を抜いて以下3作が文章を楽しむ快楽があった。ネタがおもしろいと言うのとは別に、文章がおもしろいことが必須だ。
牧野修「螺旋文書」:センテンスの短い文章がリズム感よく打ち出されてきて、同性愛の二人の関係がどの順番で繰り広げられているのか、目眩のするような不思議さ。緊張感と妖艶な雰囲気が心地よい。個人的にはここまででよく、宇宙から攻撃してくるテキスト群の設定は別の話にしてくれないか。
田中啓文「嘔吐した宇宙飛行士」:愉快愉快。細かい描写もみんな愉快。それでいて全然下品でない文体。大切な宇宙訓練の前日に大食い競争があるというムチャな展開が新作落語のような面白さ。この作品もサービスし過ぎで、この2日間だけで終わって欲しかった。
北野勇作「かめさん」:これが一連のカメ小説の嚆矢なのかな?この文庫本の中で、この作品のみが単にストーリーを追っていくだけではない文章表現になっていて、進行を気にせず世界を味わうことができる。すごくのんびりする。そしていつもどおり少し寂しい。