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「文士と姦通」 川西政明
読書
「文士と姦通」川西政明 著
(集英社新書)

姦通という言葉も近年はあまり聞かなくなったが、日本近代文学のなかでは多く描かれた姦通小説。作品の背景にあった作家自身の不倫関係を解説。

自然主義の伝統のあるせいか、私小説ならずとも自身の体験をモデルに書かれた作品が多い日本文学。こんなにも姦通が大きなウエイトを占めていたとは知らなかった。自分の認識より人は簡単に姦通するもんだ。もとより旧法では男性はなんら罰せられない上、妾を持つことも普通であった時代故か。女性では宇野千代が自由で突出している。

芥川が他人の婦人と関係を持ってしまったことも意外な感じがするが、やはりモラリストで不倫関係が露見した時の騒動・混乱に恐れおののいていた。いわゆる有名な「ぼんやりした不安」が実はぼんやりしたものではなく、なまなましい実感をもったものだったという見解は驚きだ。

岡本一平がかの子の不倫を許し、その後プラトニックな関係のみに徹したことを稀有な行為のごとく書かれているが、ほんとうに一平がかの子を必要としているならば肉欲を断つくらいのことはなんであろう。いちばん大切な人の精神的な安定のほうがずっと大事である。

マゾヒスト谷崎がやはりかなりヘンなやつなのは想定内だが、島崎藤村は姪と関係を持ったあとパリへ逃げていてふつうに情けない男。比べるわけではないが、有島武郎は最後まで金での解決を拒む潔いまじめな人間らしく、ほんとうのところはさておくとしても、やはり自分の性に合う。

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