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「悪い時」 ガブリエル・ガルシア・マルケス

「悪い時」
ガブリエル・ガルシア・マルケス 作
(光文社古典新訳文庫・寺尾隆吉 訳)

誰が書いたか連続して現れる政治的ビラ。街を不安と緊張に陥れるビラをめぐって揺れ動く1940年代のコロンビアの姿。

中編小説の割には多くの人物が登場し、事件が起きそうな不穏な空気感ばかりが溢れるが、なにが起きようとしているのかはもう一つはっきりしない。茫漠とした印象だ。周辺をなぞるだけで踏み込みが甘いのかもしれない。この辺りは文庫解説にあるとおり、発表された当時でも欠点とされている。

もともと物語の時代のコロンビアは内戦が終わって仮初めの平和のもと、ややもすれば暴力が再び目を覚ましかねない一触即発の緊張状態。その中での謎の反体制ビラだから、突然誰かが撃ち殺されても不思議ではない。舞台となるのはそんな街だ。

町長(警部補)・神父・判事・成金・未亡人などが、朝起きた・飯食った・出かけた・酒飲んだなどをそれぞれ繰り返してウロウロする。それだけのことでも油断ならない。一癖も二癖もある人間たちの匂い立つような魅力が、おそらくマルケスならではの持ち味で、なにも事件が起きなくてもまんまと最後まで読まされてしまう。もう目が離せないのだ。

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