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「寛容論」 ヴォルテール

「寛容論」
ヴォルテール 著
(光文社古典新訳文庫・斉藤悦則 訳)

カトリックからプロテスタントへの数々の不毛なる迫害。博識を駆使して理性と寛容を説く、ヴォルテールの現代へ連なる名著。

カトリック教徒からのあまりにひどいでっちあげで冤罪のまま刑死してしまったプロテスタントの父親ジャン・カラス。ヴォルテールがこの著作を書くきっかけとなった「カラス事件」だが、あっという間にデマが人を殺す、いつの世も変わらない悲惨な話だ。

ヴォルテールはさすがに膨大な知識をもってして、様々な国家で多様な宗教が平和に共存していたことや、過去にカトリック、プロテスタント両者が寛容な精神を持って併存していた例を列挙する。しかしかつて「ナントの勅令」がユグノー(プロテスタント)を救い平和と繁栄をもたらしていたにもかかわらず、暗愚な支配者(ルイ14世)が登場するとあっという間に差別的な旧体制へ戻ってしまう。人間とはいつの世もまことに情けない生物である。

ヴォルテールは世界中に多くの宗教がある中で、実はキリスト教が最も不寛容な宗教で、多くの異教徒を殺戮してきたのではないだろうかとの見解を示す。なるほどキリスト教がそれまでの素朴で民族的な宗教に比べてはるかに厳しい教えで、世界宗教たるべくの特徴を持つのであればそうならざるを得ないのかもしれない。現代でも原理主義に至って容易に世俗化されない一面を持つ。無宗教の私などから見れば恐ろしいものである。

ヴォルテールの近代的な理性に基づいた解釈は、キリスト教の数々の伝説を否定して科学的で常識的な対応を求める。この時代におけるオピニオンリーダーとしての活躍はさすがだ。また文章には文学者ならではの躍動する面白さがあり、内容とはおよそ無縁な現代日本人の私が読んでも興奮する出来栄えであります。

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