漫画家まどの一哉ブログ
「ニーベルンゲン」 ヘッベル
「ニーベルンゲン」
ヘッベル 作
(岩波文庫・香田芳樹 訳)
中世ドイツ叙事詩を19世紀の劇作家ヘッベルが波乱万丈の戯曲に再構成。広大なスケールで繰り広げられる一大スペクタクル。
舞台は5世紀、ニーベルンゲン族の住むブルグント国。
第1部、第2部までは愛の物語でイーゼンラント(アイスランド)の女王ブリュンヒルトという屈強な女神が登場し、他に名剣バルムングを持つネーデルランドの不死身の王子ジークフリート、美貌の姫クリエムヒルト、凡庸な若き王グンターなど、この4人の間で恋焦がれる相手を我が者とする策略が進行する。しかしこれにはもちろん国家的政策的背景がある。ブリュンヒルトが女性でありながら人間離れした強さで、叙事詩といえども半分は神話のような趣がある。
ところが第3部になると恋の策略に敗れたブリュンヒルトは登場せず、美貌の姫クリエムヒルトは殺された夫ジークフリートの復讐に燃えるばかり。北欧の王や最強勢力フン族のアッチラ大王まで現れて、謀臣ハーゲン率いるニーベルンゲン族との戦いとなり、このスペクタクルが物語の最大の見どころとされている。
しかし戦争へと進んでいく過程でそれぞれの人物の心中に意外性はなく、死へ向かって悲劇が完結するばかり。物語としては納得できる組み立てではあるけれど、この大戦争の種をまくかたちの第2部までのほうが神話的で現実離れしていて面白かった。
すべて含めてドラマチックで感情豊か。いかにも劇場向けのエンターテイメントで大ヒットも頷ける作品だ。
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