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「マッカラーズ短篇集」 カーソン・マッカラーズ

「マッカラーズ短篇集」
カーソン・マッカラーズ 
(ちくま文庫・ハーン小路恭子 編訳/西田実 訳)

少し変わった(クィア)クセのある人々の人生を躍動する筆致で描く。1900年代半ばのアメリカ文学。

文庫本で約半分を占める巻頭「悲しき酒場の唄」が圧倒的におもしろい。主人公アメリアは身長188cmの男気たっぷりの逞しき女性だが、あからさまに現在使われている意味でのクィアということをテーマにしているわけではない。たしかにいわゆる女性的な一面は全く無く、かといってレズビアンというわけでもない。極めて有能な酒場経営者だ。

もう一人背骨の曲がった小男ライマンが、これもちょっと珍しい人格で、肉体的には貧相ながらもアメリアの愛人となって酒場を支配し、全方位にアンテナを張り巡らしている。なぜ男性としてはヘナヘナの小男ライマンに逞しいアメリアが惚れるのかわからない。
そしてもう一人徹底したヤクザ者のマーヴィン・メイシーは、一時的にアメリアと結婚したものの肉体関係は許されずあっという間に追い出された経験を持つ。このワルのマーヴィン・メイシーに小男ライマンが夢中になってアメリアをほったらかしてついていくのがなぜなのか、これもさっぱりわからない。

一種のキャラクター小説のようなもので、これだけ奇妙な人物が揃えば(作者の腕によって)それだけで話は面白くなる。内面の解説や観念的な描写もなく、起きたことを次々と書き飛ばしてゆくのでワクワクとするまぎれもない傑作だ。
他に小品「騎手」なども、個性的な人物たちのほんの一瞬を切り取って投げ出した面白さ。巻末「そういうことなら」は少女の一人称で書かれているが、それ故の理屈抜き感がよかった。とにかく教養ある者が登場しない作品が面白い。

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