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漫画家まどの一哉ブログ

   
「十二月の十日」 ジョージ・ソーンダース

「十二月の十日」
ジョージ・ソーンダース 作
(河出文庫・岸本佐知子 訳)

奇矯な設定と饒舌なる一人称で圧倒する、ディストピア感満載の現代アメリカ文学短編集。

以前「短くて恐ろしいフィルの時代」を読んだときにはここまで妙な設定にしなくてもいいのに。と思ったが、この作家は奇想を強引にまとめ上げてしまう力量がある。それは非常にくだけたリアルで猥雑な語り口にあるのかもしれない。

「スパイダーヘッドからの逃走」:感情を自在にコントロールできる様々な薬の実験台とされている人間たち。すでに体に薬がセットされていて、リモコンで投入されるのだからたまらない。極端な喜びも悲しみも一瞬の薬のせいであることを自身が露骨に認識している虚しさ。ディストピア小説の佳作。

「センプリカ・ガール日記」:家計は苦しくとも子どもたちにできるだけのことをしてやりたい。そんな思いの日々の浮き沈みがそのままの言葉で綴られ、うれし悲しき人生のありさまだ。ところがやがて登場する「センプリカ・ガール」という人間装飾が恐ろしいもので一気にディストピアだ。愕然とする。未来の人々に日記で残そうとしていたのはこんな恐ろしい世界であったとは。

上記2作で人間扱いされていない目に遭っているのは、いずれも不幸な境遇から犯罪者となってしまった人間で、これも悲劇だ。
訳者解説にもあったとおり、巻末表題作「十二月の十日」になるとやっと救いがあって、凍った湖に落ちた子供も助けようとした青年も無事でよかった。読んでいてほっとした。

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