漫画家まどの一哉ブログ
「恐ろしき媒(なかだち)」 ホセ・エチェガライ
読書
「恐ろしき媒(なかだち)」ホセ・エチェガライ 作
(岩波文庫・1928年初版)
一家の主人と同居する主人の恩人の息子。世間では主人の若き妻とのあらぬ疑いをかけられ、噂はさらに疑念をよぶ。平和だった一家が、根も葉もない噂によって破滅へと至る三幕劇。
スペインの作家エチェガライの1881年作品。
一家の主人、若き妻、同居する恩人の息子はいたって善良で上品な人々であるのに比べ、主人の弟家族は下卑た連中でいわゆる無責任な世間そのもの。登場人物はこの2家族だけだが、スキャンダルを好む世間と誤情報によって、善良な一家がじりじりと崩壊してゆく様子に目が離せなく、心痛む。
まことに世の中とは下品なもので、無償で恩人の息子を同居させているなど、奇特な善行は気に食わないのである。ここでは弟家族がその代表として登場。典型的な徳なき凡人で情けない限りだが、これが現実というものだろう。そして自分の中の小さな疑いをついに消し去ることができず、そのとりこになってしまった一家の主人も悲しいかな人間の典型である。
誤解が誤解を生んで正義が報われないまま終わるタイプの悲劇。
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