漫画家まどの一哉ブログ
「とどめの一撃」 ユルスナール
読書
「とどめの一撃」ユルスナール 作
(岩波文庫)
バルト海沿岸の地方都市で反ボルシェビキ闘争に身を投じるエリックとコンラート。そしてコンラートの姉ソフィーのエリックへの届かぬ愛。内戦下の青年の愛と悲哀を描く。
この話にはモデルがあり、ユルスナールは事実を忠実になぞったとのことだが、文庫解説にもあるとおり元となった実話にはソフィーのエピソードはほとんどなく、この作品でのソフィーの役割はあたかも当時実らぬ恋に悩んでいたユルスナール本人の投影らしい。そしてそのソフィーの内心の変転と絶望がこの作品の主軸となっている。
ただ相手のエリックのほうでも自分がソフィーの求愛を拒絶しているかどうかはっきりせず、心は揺れ動く。ここに二人の意地や嫉妬、怒りと信頼、そして喜びと悲しみが描かれるわけだが、さすがユルスナールの細かい心理描写は、私のような人間心理に疎い者には読んでいても忠実には理解出来ない。ただ最終的にソフィーが敵である赤軍へ味方して破滅するので、やはりこの物語は充分悲劇である。
PR