漫画家まどの一哉ブログ
「怒りの葡萄」 スタインベック 作
砂あらしとトラクターの進出によってオクラホマの住処を奪われた小作農の一家。新しい農地を求めてはるばるカリフォルニアまで中古トラックにマットレスや家財道具一式を積んで移動する。しかしたどりついた夢のカリフォルニアは既に大規模資本の支配下にあり、多すぎる農民達は低賃金で使い捨てにされるのみだった。
まさに難民生活。爺ちゃん婆ちゃんからお父お母、叔父に妊婦に幼い子供達まで。結束して生きていかねばならない大家族の中で、父親は小作地を追われた段階で既に指示命令能力を失っており、かつての暮らしに思いをはせるばかりだ。自身の過ちから妻を亡くした叔父は、なにか不幸があるごとに自分の罪を責めていてまるでネガティブな存在。仮釈放の身で参加した長男がはるかに実用的なしっかりした人間だ。彼がある意味主人公とも言えるが、本当の主役は腹の据わった一家のまとめ役の母親。この母親の情の深さで作品が実に魅力的になっている。
元伝道師の男が同行しているのだが、この男がひとり社会や神や人生について始終考えていることを口にする役割であり、ぼんやりとではあるが民衆の立場を俯瞰して語ってくれる。
オクラホマ出身者=オーキーという呼称にもともとは差別的な意味合いはなかったのに、知らないうちに蔑称となる。難民の境遇は同情する部分はあるが、ことが地元民の生活に及ぶとすぐさま差別感情が芽生え、あいつらは人間じゃない云々へと容易にたどりついてしまう悲しさ。
スタインベックは妄想や観念のまったく入らないタイプの作家なのか、ルポとも言える社会派長編。登場人物は全員ごく平凡な民衆ばかりで、難しい言葉はいっさい登場しない。さすがにみんな生き生きと動く。読みやすくて読み応えあり。そして大きなドラマの結末はなく、小さなひとつのエピソードでお話は終わるという終わり方です。