漫画家まどの一哉ブログ
「幻の下宿人」
読書
「幻の下宿人」 R・トポール 作
漫画家としてのトポールは大好きで、めったに開かないが分厚い画集を持っている。ざらざらひりひりとした生理的に痛いとろを付いてくるブラックな作風。そんなトポールの小説作品。
前住人の女性シモーヌが窓から飛び降り自殺をしたアパートの部屋。その後にまんまとその部屋を借りることに成功した主人公トレルコフスキーは、なるべく近隣の住人の迷惑にならないように音も立てず、ゴミ出しのマナーも守って暮らし始める。しかしどうにも管理人はじめ、回りの住人は異常に神経質なようで、身に覚えのない苦情が連続して持ち込まれるのだ。しかもだんだんと身の回りで、いやがらせのような不快なことが連続し犯人は分からない。ここまではなかなかにミステリアス。
謎めいたまま話は進んでいくが、トレルコフスキーがいつのまにか女装して倒れているなどするうち、どうやら不快ないやがらせなどは全て幻覚で、おかしいのは主人公の方ではないかと気付いてくる。アパートの住人全員による彼の抹殺が企まれているとの判断に至って、ついにこれは本人の被害妄想だと分かる。狂人となったトレルコフスキー。そしてアパートの中庭に次々と現れる奇妙な幻視が、まるでボッシュ(ボス)の絵を見ているようで、くらくらと愉快だ。
結局前の住人シモーヌと同じように、だが無意識のうちに窓から飛び降りて自殺を図った彼は、助かって病院で最後にシモーヌになっているのだが、この辺りは何が現実で何が妄想かわからないまま幕を閉じるという、幻想文学の王道を行く収束である。
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