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漫画家まどの一哉ブログ

   
「こころ」

読書
「こころ」 夏目漱石
 作


漱石は当初短編連作として構想していたらしい。どうりでこの作品は構成がヘンだ。話は大きく「先生と私」「両親と先生」「先生と遺書」の3つに分かれているが、キモは3つ目の「先生と遺書」であってそれまでは前フリ。はたしてこの先生の謎めいた生活の理由は?死者となった友人とのあいだで過去になにがあったのか?などミステリアスに興味は引かれていくが、それ以外はこれといって書く程のことは起きない。語り手の私はまだ学生で、田舎の両親のことや進路のことで思い悩むが平凡なことである。それにしては長い。全体の構成の2/3が私と先生の不思議な交流で、なんということはないが文章が読みやすいので読んでしまう。もちろん読みやすいとは平易という意味でなく、うまいという意味である。


ところでこの作品は中学生からの文学入門書のごとく文庫化されているが何故だろうか。登場する友人Kが、明治期にはたくさんいたかもしれない求道的な人物で、それ故にさほど求道的でない私(先生)のエゴイズムが際立って見える。しかし繰り広げられる恋愛上のエゴイズムは誰にでもある人類共通のもので、そんなに後悔することもなかろうと思うが、友人Kがそのために死んでしまっているという図式によってテーマとして立ち現れてくる。つまりこの小説は自然主義リアリズムとは無縁のテーマ小説で、わかりやすい設定を使ってあるために教科書的に扱われるのかもしれない。


では何故、漱石はエゴイズムをそんなに問題としたのか?そんなことがこの時代の漱石の人生を省みて分かるだろうか。エゴイズム自体について考えるのは別にしても。他のものも読んで、なんとなく漱石とはこういう人間だったらしいと感じることにしよう。


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