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漫画家まどの一哉ブログ

   
「工場日記」 シモーヌ・ヴェイユ
読書
「工場日記」

シモーヌ・ヴェイユ 著


1934年、25歳の若き哲学者シモーヌ・ヴェイユが、教職を投げ打って飛び込んだ実働の世界。アルストム電気工場やルノーなどの大工場で、プレス・旋盤・フライス盤などの機械を前に、圧延・ねじ切り・研磨などの作業に挑む。
彼女は社会経験をともなわない単なる観念は少なからずエゴイズムを孕むことを見抜いていたようで、天性の平等感覚を持って社会に飛び込んで行くその態度はけっして物見遊山的なものではない。機械の調整についても頻繁に日記に書き込んでいるくらい仕事に打ち込んでいる。


一日のうちで仕事内容はいろいろと変わり、彼女は作業時間や仕上がった部品の数、稼いだ金額まで克明に日記に記している。この賃金が実質どれくらいの値打ちであるのか分からないが、オシャカになってしまう部品もたくさんあり、機械は必ずと言っていいほど調子の波があるし、たびたび故障しては作業は中断されるので、とうぜんわりのいい職場ではあるまい。
また求められる作業量が過酷なので、のんびり他のことを考えている余裕もなく、ただただ集中して機械を動かさなければならない。終わるころにはぐったりと疲れ足を引きずるようにして帰宅しても、翌朝にはまた元気に出社するのはまだまだ若いせいもあろう。それでも頭痛持ちでもあるし、体調が悪いときにはせっかくの休日も寝たままで終わってしまう。この苛烈な環境をのりきるためには何も考えないで黙って過ごすしかなく、そうやって一日一日を過ごすうち、だんだんと考えることを奪われた人間になって行く。なんと隷属的な労働環境だろうか。
そうは言っても休憩時間や仕事がうまくいっているとき、親切な仲間に助けてもらったときなど楽しい一面もたしかにあるのだ。


脳内で観念的なことを操ることにかけては人一倍巧みな哲学者でさえも、一労働者となってみれば、現代の我々が労働現場で感じていることとまったく変わらない。人間性を容赦なく奪う賃労働の哀しさよ。雇われて働くということは常にこういうものなのか。ああ…。

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