漫画家まどの一哉ブログ
「バーデン・バーデンの夏」 レオニード・ツィプキン
読書
「バーデン・バーデンの夏」
レオニード・ツィプキン 作
「バーデン・バーデンの夏」
レオニード・ツィプキン 作
ドストエフスキーの妻アンナ・グリゴーリエヴナの残した日記を片手に、彼ら夫婦の旅暮らしを後追いする。作者自身の旅の記録と、ドストエフスキーとアンナの記録が改行も無く入り混じり折り重なって行くという趣向。作品の面白さのほとんどはドストエフスキーとアンナの暮らしぶりにあって、ドストエフスキーの人物像は巷間多く伝えられているとしても、ここまで魅力的に書けるのは作者の愛がなせるわざなのか。なにせ有名作家達とのケンカでは、かのツルゲーネフまでもが凡才扱いだ。スーザン・ソンタグによって再発見されなければ、ほぼ失われてしまった傑作。
激しやすい性格ですぐ着火し怒鳴り散らす。かと思うとすぐさま妻の前に跪き衣服に口づけして赦しを請う。たびたび癲癇の発作を起こして倒れる。ルーレットにとち狂って次から次へと質入れしては小銭を持って会場へ駆けつけ、またたく間にすってしまうが懲りない。街を去る寸前のちょっとした合間にも同じことをくり返し、旅費さえも危うくなる。このあたりの常軌を逸したルーレットに賭ける執念(会場までの歩数を縁起のいい数字にするため苦心して歩く)と乱脈ぶりがおもしろくて目が離せない。かと思うと家計を省みず貧しい人々に乞われるままに施しをしてしまう。そして突然悪化した肺からの喀血の結果、自分の死期を悟ったままソファに横たわり旅立って行く。そんなドストエフスキー。
ところで夫婦が海を泳ぐ描写がたびたびあるが、これが性愛をえがいたものだとは、うかつながら気付かなかった。
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