漫画家まどの一哉ブログ
「劇画暮らし」 辰巳ヨシヒロ
読書
「劇画暮らし」 辰巳ヨシヒロ 著
「劇画暮らし」 辰巳ヨシヒロ 著
作者の自伝的エッセイ。「劇画漂流」は手塚治虫が死んだあたりで終わっているが、これは映画「TATSUMI」までを含む。既に知っている話でもついつい面白く読んでしまった。
内容は創作ではなく事実であるから評価云々はできないが、一生を通して漫画(劇画)に携わって生きているのは、さすがに才能のなせるところ。世間は辰巳ヨシヒロを眠らせてはおかないのだ。それにしても若くして貸本漫画家となり、仲間の漫画家達と意見を戦わせながら、新しい表現の開拓に励むなどは、まったくうらやましい理想の青春である。自分にはまるでなかった人生のなりゆきだ。
私は年齢的に貸本漫画隆盛の頃は知らず、ごく幼少期に見ていたものは子供用のほのぼのした愉快漫画だったので、劇画工房の頃よりその後の青年コミック誌誕生の頃のほうが実感を持って読むことができる。辰巳さんの画風も花登筐や梶山季之の世界にぴったり合っていたのではないか。よく知らないで言うが殺伐とした世相と昭和のアウトローの風情が思い浮かぶよ。
それよりもやはり辰巳ヨシヒロの世界的評価は人間と社会の暗部を描いた短編にある。これは辰巳作品があくまでエンターテイメントの方法を離脱しない、ちゃんとストーリーとオチがある描き方で描かれているためで、この枠を突破してしまうとなかなか理解されないのは残念ながら国際的標準であるらしい。
個人的には、手塚治虫文化賞授賞式後のパーティーに混ぜてもらったことがあるくらいです。
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