漫画家まどの一哉ブログ
「安部公房とわたし」 山口果林
読書
「安部公房とわたし」 山口果林 著
「安部公房とわたし」 山口果林 著
女優山口果林が作家安部公房との秘められた20年の愛の奇跡を綴ったルポルタージュ。安部公房ファンの自分としては作家の日常や創作の秘密が描かれた貴重な資料。山口果林ファンは安部公房のことはよく解らずに山口果林の人生を知るだろう。自分は「ヒントでピント」くらいしか知らない。
確かに不倫は良くない事なのだが、家庭を築いた後で自分にとってこの人こそといった人に出会う事もあるだろうし、そのまま恋に落ちたとしても仕方がない。男と女だもの。そんなこともあるでしょう。
それにしても20年を越える年月、お互いの家を行き来しながら二人の関係が隠されていたことには驚いてしまう。安部公房の死に至るまで山口果林を許さず、憎悪の炎を燃やしていた本妻安部真知はなぜ世間に訴えなかったのだろう。安部公房は調布の自宅を離れ箱根の別荘で暮らし、自由になるお金も少なかったようだ。
映画・演劇には疎いが、山口果林の桐朋学園演劇科から俳優座というコースはかなりエリートのように見える。学生の頃から安部公房に師事し、周りには一流の演劇人がいっぱい。そしてその頃から23才の歳の差を越えて二人の愛が育まれていくようすが、世間から隠れながらだとはいえ、楽しそうで心暖まるものがある。これは赦されない愛だからこそ訪れる時間なのかもしれない。その貴重な時間を大切に過ごす二人のようすがほほえましい。そして死を前にした安部公房の病室に入る事もかなわない山口果林の不安や悲しみが切ない。
安部公房も山口果林も才能を惜しみなく使いまくって生きてきた。それは幸福なことだ。
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