漫画家まどの一哉ブログ
「ゴーレム」 マイリンク
読書
「ゴーレム」
「ゴーレム」
グスタフ・マイリンク 作
呪文によって土塊から作られる怪人ゴーレム。その伝説が息づくプラハのユダヤ人ゲットーを舞台に、不思議な運命に操られる宝石細工師の物語。
さぞやゴーレムの謎を巡ってお話が進むかと思いきや、ゴーレムらしきやつは最初にチラッと登場して無言である本を手渡すのみである。悪役であるところの古物商の悪だくみに立ち向かう主人公とその友人達の数奇な人生が描かれる。
さすがドイツ幻想文学の旗頭マイリンクだけあって、現実と幻想がないまぜとなった語り口は頭がとろけるような心地よさ。主人公は青年時の記憶を失った人間であり、しばしば白日夢を見るので、読む側にとっては何が事実だったのか解らない。それでもアパートに連なる地下道を通って出入り口のない秘密の部屋にたどりついたり、殺人犯に仕立て上げられて未決囚としての日々をおくったり、冒険小説としてのおもしろさがふんだんにある。
小説全体は登場するラビの説くように、精神的なものに重きを置き、大いなる魂の存在へ憧れる人々の物語となっているのだが、確かにそういう向きはあるにせよ、全体の構成はあらかじめ考えられていたとは思われず、作者は筆の趣くままにゴーレムそっちのけで面白い事を書いたのだと思う。なにせラストは大掛かりな夢落ちだから。
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