漫画家まどの一哉ブログ
「夢宮殿」
読書
「夢宮殿」 イスマイル・カダレ 作
馬車が走る時代のオスマン・トルコらしき国が舞台。そこでは夢に重きが置かれていて、国民が夜ごと見る夢を国家が収集し、選別・解釈して国の行く末にとって予兆となる重要な夢を探り出すのである。それが「夢宮殿」とよばれる巨大な役所の仕事である。叛乱など危険な兆しをはらむ夢を見た者は、長期間監禁されて尋問を受け、最後は死者となって宮殿を出ていくこともあるのだ。
主人公はアルバニア出自の名門一族に連なる身であるが「夢宮殿」に就職し、膨大な夢ファイルを繙く毎日をおくることとなった。ところが主人公が見逃した一つの夢の中に一族が皇帝への反逆を企てるという重大な意味を暗示する夢があり、一族は皇帝から弾圧を受けることとなるが…。
カフカを思わせる迷宮的な世界設定がおもしろいが、かといって観念小説ではなくシュールなイメージが横溢するというわけでもない。なにをやっているのか合理性が疑われる役職や、他の役人の不思議な理屈など出てくれば、カフカやベケットや安部公房なのだがそんなことはなく、この夢宮殿のシステムはガッチリ整合的に組まれている。ただこの役所がやたら広くて、主人公が路に迷ってばかりいるのがカフカ的といえばカフカ的だ。
国中の夢を集めて診断するというわりには、具体的な夢の内容描写はわずかしか出てこない。
主人公が役職を登っていくに連れてこの組織の仕組みが解き明かされて行き、また主人公一族の集まりが何やら不安げな様子を漂わして、国家とこの名門との間に事件が起きることが暗示される。という具合にけっこう話が直線的に進んで読みやすかった。これも幻想文学。
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