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「唐宋伝奇集」下

「唐宋伝奇集」下
(岩波文庫・今村与志雄 訳)


ごく短い怪異譚を40編収録。次から次へと楽しんで読める。日本文学で有名な作品も元はごく短くあっさりとしたものである。

「杜子春」牛 僧孺
:地獄に落とされるなどどんな酷い目にあっても口をきいてはならないという仙人のいいつけ。しかし我が子が殺されかかるところを見て「ああ!」という声を発してしまい、仙人修行は虚しく終了。怒り、哀しみ、懼れ、悪み、全ての欲を断ち切ることはできたが愛だけができなかった。
芥川の「杜子春」ではこの愛の対象を父母に変え「お母さん!」と叫ばせてしまう。やはり親への愛がいちばん大切ということが当時の基本的な道徳なのだろうか。また人間らしく正直に生き直そうとする杜子春に家まで世話する丁寧さ。読者の心情をリカバーするサービス精神がみられる。


「李徴が虎に変身した話」張読:自身の才能を恃んで倨傲であった李徴。身分の低い同僚を見下して官職につかず、地方でもてはやされている内についに発狂して虎になってしまう。
中島敦「山月記」では李徴の尊大を実は羞恥心と臆病な自尊心の表れとして語らせる。才能の不足と刻苦を厭う怠惰が己を虎にした。このあたりはまさに中島敦の真骨頂。


「魚服記ー薛偉」李復言:病を得て失命したとみえた瞬間、その身は鯉となって池の中を自由に泳いでいた。捕まって食べられそうになって蘇り、食べようとしていた者たちを家に呼ぶ。
これも上田秋成が「夢応の鯉魚」で豊かに膨らませている。我慢できなくて釣り餌にかかってしまうまでなど、水中でのシーンを細かに描写している。やはり怪異が好きで書いているようだ。

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