漫画家まどの一哉ブログ
「傭兵隊長」 ペレック
読書
「傭兵隊長」 ジョルジュ・ペレック 作
過去の有名画家に対する綿密な調査・研究のうえ贋作を製作、あたかも新たに発見された作品であるかのように装い、億単位の金を動かす贋作ビジネス。主人公ガスパールは若い頃から贋作作家として密かに成功をおさめていたが、ルネサンス期の巨匠メッシーナの「傭兵隊長」の贋作製作に失敗し、画家としての自分を束縛し続けた金主の殺害に至る。
いきなりの殺人から話は始まり、地下の作業場から壁に穴を開けて密かに脱出を図るが、そこからは脳内に巻き起こる内省や雑慮がとぎれとぎれの文体で羅列されるだけ。これがまるで単語のような短さで、読みにくいことこの上なく、これがペレックというものか、こんなに実験的な方法なのかと思っていると、後半ではガラリと変わって、主人公と友人との対話形式で殺人に至るまでの心の動きを振り返ってゆく。これはいたって読みやすい。また二人称のごく普通の地の文も対話と交代で捕捉される。
前半で脱出用の穴を掘っていたシーン以降、物語はまったく進行しない。登場人物はきちんと役割を決めて設定されているが、主人公の回想の中でしか出てこない。テーマ的なものがあるとすれば、自己を偽って贋作ばかり描いてきた人生のアイディンティティはどこにあったのかというところで、これもそこから一歩も進まない。贋作作家ゆえのアイディンティティの問題はたいへんわかりやすく、そりゃそうだろうと思うところ。ただそこに百万言費やせるのが小説家の才能なのかもしれない。またそこがこの作家の魅力なのかもしれない。
「傭兵隊長」 ジョルジュ・ペレック 作
過去の有名画家に対する綿密な調査・研究のうえ贋作を製作、あたかも新たに発見された作品であるかのように装い、億単位の金を動かす贋作ビジネス。主人公ガスパールは若い頃から贋作作家として密かに成功をおさめていたが、ルネサンス期の巨匠メッシーナの「傭兵隊長」の贋作製作に失敗し、画家としての自分を束縛し続けた金主の殺害に至る。
いきなりの殺人から話は始まり、地下の作業場から壁に穴を開けて密かに脱出を図るが、そこからは脳内に巻き起こる内省や雑慮がとぎれとぎれの文体で羅列されるだけ。これがまるで単語のような短さで、読みにくいことこの上なく、これがペレックというものか、こんなに実験的な方法なのかと思っていると、後半ではガラリと変わって、主人公と友人との対話形式で殺人に至るまでの心の動きを振り返ってゆく。これはいたって読みやすい。また二人称のごく普通の地の文も対話と交代で捕捉される。
前半で脱出用の穴を掘っていたシーン以降、物語はまったく進行しない。登場人物はきちんと役割を決めて設定されているが、主人公の回想の中でしか出てこない。テーマ的なものがあるとすれば、自己を偽って贋作ばかり描いてきた人生のアイディンティティはどこにあったのかというところで、これもそこから一歩も進まない。贋作作家ゆえのアイディンティティの問題はたいへんわかりやすく、そりゃそうだろうと思うところ。ただそこに百万言費やせるのが小説家の才能なのかもしれない。またそこがこの作家の魅力なのかもしれない。
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