漫画家まどの一哉ブログ
「ロスト・シティ・レディオ」 ダニエル・アラルコン
読書
「ロスト・シティ・レディオ」
ダニエル・アラルコン 作
内戦が続く中南米のとある共和国。
戦争で行方不明になった多くの人々。「ロスト・シティ・レディオ」はそんな人々からの捜索願を受け、紹介し、感動の再会までを演出する人気ラジオ番組だ。主人公ノーマはその声の魅力で国中の人々を引きつける女性パーソナリティである。
植物学者の夫レイは研究名目でジャングルに隣接する地方の村に定期的に滞在していたが、反政府勢力「IL」との関係を疑われ、収容所『月』に囚われの身となる。
内戦終了後10年。夫の行方を探し求める彼女の元へ、行方不明者のリストを持った一人の少年がやってきた。リストには夫の別名があり、やがて彼女が知ることになる彼の真実とは?
行方不明の夫との幸福だった日々の思い出が、失われたものとして繰り返し描かれる。この彼女の切なさ。当局の捜査を逃れながらも、潜伏する協力者との接触を強いられる夫。その暗く緊迫した日常。そして村では青年達を筆頭に多くの人間が行方不明となっていく。残された母親や老人達の寂しさと悲しさ。誰の心も安らいでいない。内戦状態であることで作品全体がつらく張りつめたまま押さえられた色調で綴られていく。
出来事を時系列から解き放ち、10年の歳月が行きつ戻りつしながら進行するので、ていねいに読まなければ前後を見失いそうになる。しかし緊迫した状況の中、ミステリアスな仕掛けが少しずつ解き明かされていくのは興奮した。
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