漫画家まどの一哉ブログ
「バルザックと小さな中国のお針子」 ダイ・シージエ
読書
「バルザックと小さな中国のお針子」ダイ・シージエ 作
「バルザックと小さな中国のお針子」ダイ・シージエ 作
文化大革命の中国。山村へ再教育に出された二人の青年と村のお針子の少女の、禁じられていた書物の世界をめぐる恋と友情の物語。
なにが青春なのかはさておき、これはまぎれもない青春小説だと思う。爽やかな読後感。
本来なら相応に学問の道へ進むべきであるはずの男子ふたりが、下放政策のため山岳地帯の農村へ追いやられ、本を禁止された世界で肉体労働を課されている。しかし体力はある。世界に対する発見は新鮮なものだ。運命の激変で雌伏の時間を強いられたが、それでも人生はスタートしたばかりなので、まだまだたっぷりある未来へ向かって常に臨戦態勢のような元気を感じる。とうぜん悟ったようなところや一歩退いて観るようなところはなく、ふりかかる苦難には全力で取組む方法しかない。これが若いということか。
作者は著名な映画監督でもある人だが、そうか、私と同世代の中国人作家はちょうど文革の下放政策の犠牲者なのか。有為なる青年から教育をはぎとるとはなんとおろかな政策であったことだろう。
最後の方で登場する村の医師がバルザック作品と翻訳者を熟知している人間で、主人公の青年とお針子の少女を助ける。人種や政治性を越えて普遍的な人間性に到達しようとする、これこそが教養というもんだ。
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