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漫画家まどの一哉ブログ

   
「心臓抜き」 ボリス・ヴィアン
読書
「心臓抜き」 ボリス・ヴィアン 作


もちろん作為なのだが作為的には感じない、ごく自然体で書かれたシュールレアリスム小説といった風情。特異な設定の中でも会話が理屈っぽくなく、素直な感情のやりとりで馴染みやすい。

それでも出来事はある種シュールの典型といった奇妙な具合だ。
たとえば主人公の精神科医がなぜ突然田舎のお屋敷で出産に立ち会い、その後世話をする事になるのか、はっきりした理由が書いていない。妊婦の叫び声を聞きつけたからといっただけ。
舞台となる村では人を人とも扱わない残酷な仕打ちが日常化していて、老人市では見せ物的に老人が売り買いされたり、大工や蹄鉄工のもとで働く徒弟の小僧は酷使されて死んでもほったらかし、川に落ちた物を歯でくわえて拾い上げる仕事があったりする。
また村唯一の教会は大きなタマゴ型のドームであり、司祭は教会内にリングを設営して自らボクシングの試合をくりひろげる。この司祭は神様を贅沢品と考えていて、民衆が神様に幸運を祈ることを厚かましいことと非難する。

さてお屋敷で生まれた三つ子は成長するにしたがって、空中浮遊に至る魔法的な遊びに熱中。子供達のまわりからあらゆる危険因子を取り除いて隔離しようとする母親の異常な心配と過保護が進む。
主人公の精神科医は村での不毛な生活にだんだんと身も心も任せきり抵抗しようとするそぶりはない。現実の世界から見ればすべて虚しい営みばかり。希望的なことや生産的なことは起きない。基本的にネガティヴな世界であるところにこの小説の快感がある。

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