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「カンディード」
読書

「カンディード」

ヴォルテール 作

これは18世紀の作品だが、近代文学のようなリアリズムがなくったって面白いものはいくらでもある。

疑う事を知らない純粋な主人公カンディードが過酷な運命に翻弄され世界各地を放浪するのだが、同行する仲間の人物達もかなり悲惨な生涯を生きる人々ばかりだ。

これは何故かというと「カンディードまたは最善説」というタイトルからもわかるように、この作品全体がオプティミスムに対する批判として書かれているからで、この場合のオプティミスムとは現代でいうところの楽天主義ではなく、当時支配的であったライプニッツの最善説というものである。神様の作った世界であるからには、世の中で起きる事は悪い事も含めてすべて最善の結果として現れているという考え。造物主という前提がなければとても納得できない説だが、1755年にリスボン大地震が起きて3万人が犠牲となってからは、ヴォルテールはいよいよこの考えに異議を唱える気になったようだ。

そんなわけで主人公カンディードは波瀾万丈の冒険をくりかえしながら、いつまでたってもお人好しなのだ。最後の最後に仲間と流れ着いた土地でささやかな畑を耕して生きていく。ようやく虚しい哲学的思弁  を捨て、実直な日々の労働に幸福を見出すという結末は、なるほど人生哲学として正解だが、ただしこれはあくまで平凡な人間の喜びの一面であって、曲者ヴォルテールがこれをもってすべて解決としていたわけではあるまい。

同時代のルソーが「告白」を書いたように冗談抜きで自己をそのままさらけ出して真実を訴えたのとは違って、ヴォルテールのように自身の思いを直裁に物語化することが照れくさく、どうしてもコントの体裁をとってしまうのは、自分もおおいに共感できる所です。もっともルソーの「孤独な散歩者の夢想」は本人がマジな分、読んでるほうは爆笑してしまうという傑作だった。

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