漫画家まどの一哉ブログ
「カインの末裔/クララの出家」
読書
「カインの末裔/クララの出家」 有島武郎 作
「カインの末裔/クララの出家」 有島武郎 作
「カインの末裔」:かなり以前に読んで強い印象があったものを再読。
北海道の厳しくも美しい情景描写が実に味わい深く、こういう文章が自分の数少ない現代文学体験ではなかなか得られない。1917年、ちょうど100年前の作品であるが全く色褪せない、時代性を超越した名作だ。
主人公は暴力的な大男で、しょっちゅう怒っていて悪戦苦闘しているが世の中と相い入れるところがなく軋轢が増すばかりでいよいよ破滅へと向かっていく。いわゆる言葉を操る人間が出てこないから人物が内省をしない。知的解釈をしている人間を描くところがなく、悪人だけを丁寧に描いて人間の有様を思い知らされる。
作者はエリートとも言える裕福な階層なのに、よくこんな野蛮で暴力的な人間を描けたものだ。有島は「自然と格闘して支配することに暗く、人間社会と融和していく術に疎い_この主人公は自分のことを書いたもの」だそうだが、それゆえのこの説得力なのか。ならば我らもカインの末裔である。
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