漫画家まどの一哉ブログ
「黒と褐色と灰褐色」 井上光晴
「黒と褐色と灰褐色」
井上光晴 作
(福武書店「井上光晴長編小説全集9」)
独立したごく短い短編小説17編で構成されたもの。日常に潜むふとした齟齬が続く。
「小説はどれだけ短く書けるか」に挑戦した井上光晴自家薬籠中の世界。我々の日常からその一部が切り取られ、いずれもすれ違う会話や暗い噂話など不穏な空気に包まれたまま、なにも明らかにならずに終わる。いつもの井上光晴カラーであり、この短編全体を味わえば、ひとつの長編小説と言えるかもしれない。
不人気の海水浴場が今年はついに閉鎖と決められたと同時に、ある団体の貸切とされた。商売を計画していた男はその経緯がわからない。一方貸切にして騒いでいる団体については、あらぬ噂話が入り乱れる。
以前付き合っていて今はもう死んだ女の記憶につられて、古い温泉町を歩く。彼女は自殺したのだろうが謎だ。当時泊まった商人宿が今は立派に改築されていたが、そこに間違いないはずなのに、旅館の人々は以前からずっとこのままだという。
汚染されていて採っても食べられない魚を大量に持っていく連中がいる。その正体を突き止める妙な仕事を受けてしまった。新聞記事にも出ていないが、魚箱を積み上げたリヤカーは工場の門前へ向かい、どうやら食えない魚の加工量を要求しているようだが…。
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