漫画家まどの一哉ブログ
「ピンチランナー調書」 大江健三郎
「ピンチランナー調書」
大江健三郎 作
(新潮文庫)
反原発運動のリーダーである映画作家女性と交際し、凶暴な妻と別れ知的障害者の息子と暮らす男。やがて親子二人の年齢は転換し、反原発運動は超大物右翼との繋がりも含めて現実離れした奇怪な様相を呈していく。
知的障害者の息子を持つ作者自身が、同じ境遇の男の体験をゴーストライターとなって著述するという体裁をとっているのも、話を非現実へ飛躍させるためか。文庫巻末で作者は前作「個人的な体験」も含めて私小説との違いを語り、文庫解説者中野孝次は代替不可能な個人的な地獄と核時代の想像力について書いているが、それはそうだとしても作品の出来栄えはまた別のものだ。
大江健三郎風味の泥臭くイメージを際立たせる手法がこの作品でもあり、例えば過激・奇怪な衣装を纏った集団が祭りを繰り広げようとするシーンなどなど。このイメージ中心の進行はいつものことだが、ダラダラしていて印象の変化も乏しくベッタリと進むので長編にはきつい。面白い仕掛けはいっぱいあるのだが…。
それより主人公の男の人格に誠実さが感じられず、必ずしも正義感である必要はないが深慮もないところが不愉快だった。これもつらい。
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