漫画家まどの一哉ブログ
「深淵」(下) 大西巨人
「深淵」(下)
大西巨人 作
光文社文庫
失われた12年間の記憶を取り戻した主人公は、ある殺人事件のアリバイくずしの調査に追われる。二人分の人格と人生を続けることができるのか。極めて困難な状況に立たされた彼がとった行動は…。
後編が始まるやいなや失われた12年間を知る人物と出会い、謎は解き明かされる。ただしその間の記憶が戻ったわけではなく、ある殺人事件のアリバイに利用されるのを回避するための活動に追われる日々。上編では冤罪事件、後編では殺人事件の究明が物語の多くを占め、相変わらず脇役端役まで手抜きなく説明がありなかなか進捗しない。それでも謎追いという形のためか読み進むことはできる。
ただしそれらの事件は主人公にとって「生の根源的問題」ではない。
失われた12年間に暮らした妻とのふとした会話から全ての記憶が蘇る。犯罪事件は解決しても結果二人の妻がいることになる。この二人の妻という事態にどういう行動を取るかの具体策がないまま「生の根源的問題」を見つめ直そうと大上段の問題意識を抱えてしまい、再び闇へ向かうのである。彼は理念的すぎるのではないだろうか。
稀有な体験をして社会と人生の深淵を覗くとはいえ、二人の妻には少しずつ接しながら、言わばなりゆきをみるしかないだろう。最初に正しい答えを見つけてからでないとしっかり生きていけないというのは人生の正解だろうか。
それにしても九州西海にいたはずの彼がなぜ釧路の病院で目覚めたのか、ちっとも触れられないままで終わってしまった。話の構造上その謎はけっこう大切なはずだが…。
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