漫画家まどの一哉ブログ
「ダブリナーズ」 ジェイムズ・ジョイス
「ダブリナーズ」
ジェイムズ・ジョイス 作
(新潮文庫・柳瀬尚紀 訳)
1900年代初頭、アイルランド首都ダブリンに生きる人々を切り取った儚くも美しい短編。
以前「ダブリン市民」のタイトルで出ていた頃には馴染めず、平凡な日常がそのまま切り取られているだけだと思ったが、今回読んでみるとなかなかけっこうな事件が起きている。ただやはり解決があるわけではなく、どうなりますやらという仕上がり。
「小さな雲」:ついに出世したらしい旧友に久々に会ってみると、彼は金のみに信を置くガサツな人間と変わり果てていた。女にも不自由しないし結婚だって金目当だとのこと。彼と別れて我が家に帰り平凡で地味な自分を慰めようとするが、つい子供に大声をあげ泣かせてしまう。
「写し」:単に書類を書き写すだけの仕事がなかなか進まず、上司に呼びつけられるが、彼の勤務態度はまるで改まらない。たびたび職場を抜けてビールを一杯。その後上司に禁断の一言を発してしまい、そのせいで仲間のヒーローとなるが、借りた金も酒場で使い果たして家に帰ると既に暖炉の火は消えていた…。
「痛ましい事故」:退職後郊外で詩と音楽を愛する静かな独身生活をしていた彼は、ある既婚女性と知り合いしばしば同じ時間を過ごすようになる。想いが募った女性を避けてきっぱりと別れたが、その後彼女は酒におぼれ、悲しい鉄道事故の犠牲者となる。
いかにもありがちな人生の行方といえばそうだが、わかりやすく書かれていながら、この味わいはやはりジョイスの腕の冴えというもの。楽しいわけではないが納得のいく寂しさ・儚さがある。我々の人生は平和でもどうしようもない…。
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