漫画家まどの一哉ブログ
「顔のない裸体たち」 平野啓一郎
読書
「顔のない裸体たち」
「顔のない裸体たち」
平野啓一郎 作
平凡な中学教師である女が、ネットの交流サイトである男と知り合い性的な関係を続ける。やがてその変態的なプレイはネット上にさらされ、匿名で顔は隠されたままではあるが、投稿サイトの人気者になっていく。ネット上の自分と日常の自分の二重性に戸惑う女。そしてとうとう男の逸脱した行為が事件を起こしてしまう。
多少理屈っぽい表現はきらいではないが、そのおもしろさは背景に原体験あってこそ生きてくると思う。非常に怜悧に男の犯罪者気質や、巻き込まれていく女の深層心理などが語られていて、そりゃまあそうだろうが、それだけではあたりまえではないか?これがもし実際作者が各種変態プレイ等を実践してみていろいろ危ない目にあった体験があれば、かなり面白いものになったと思うが、男性誌のエロ記事を観念的に考察してみたという範囲を超えない気もするし、そこはものたりない。
女は自己省察のない平凡な人間で、男は少年時から常に仲間はずれにされてひねくれている自己中心的なヤツ。両者とも実に嫌な人物で、読者としては思い入れは持てない。ネット上での匿名を使うことによって日常の自分とは違うかたちで、誰もが自身の本音あるいは別の面を世界に解放していくことができる現代の世の中。このテーマを表現したいという理由だけで、この登場人物を扱えるのが作家の才能なのかもしれないが、何が楽しくて書いたんだろうか?という疑問は残る。
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