漫画家まどの一哉ブログ
「空の青み」
読書
「空の青み」 G.バタイユ 作
主人公の私はほとんど二日酔いと風邪と吐き気と発熱でどうしょうもないグダグダ状態で、そのことばかりが書いてあるのだが、なぜか無性におもしろい。朝まで飲み歩いて、少し仮眠をとった状態で、また出かけて酒を飲むが、けっして酩酊しているわけではなく、自らが死に近づいていく感覚をつねに抱いている。自己嫌悪的なグチならつまらないが、そうではなくて病気の自分のかえって鋭利になった感覚を追いかけていて大切にしている様子が、きめ細やかで新鮮に感じる。
3人の女性が登場して、それぞれとの距離が描かれるが、セクシャルなシーンはそんなにはない。社会主義の闘士である女性は、主人公にとって恐ろしい存在であるし、仮の恋人のような若い女性はチャーミングであるが、主人公の煩悶を解決する役割はない。そして話の最後に久しぶりに会う本妻が、内面的にも肉体的にも主人公の人生を決定する。この本妻との愛が微妙な距離感覚で一筋縄では行かない感じで、二人は愛し合っているのだろうが、それが直接的にはわからなくてスリリングだ。最後に土の上でセックスするところがクライマックスだが、土と墓と死と性をネタにいかにもバタイユの思想を解説するのは評論家に任せよう。二人の感情のうつろいが読んでいて楽しい。
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