漫画家まどの一哉ブログ
「深淵」(上) 大西巨人
「深淵」(上)
大西巨人 作
光文社文庫
病院のベッドで目覚めてみると12年間の記憶を失っていた主人公。北海道釧路と九州西海の移動の謎。妻と再会し、旧友の助力を得て人生の続きを歩み始める。そして、とある冤罪事件との関わりは…。
記憶を失った男というミステリアスな設定であるため、物語の基本は失われた12年間の謎解きである。しかし上巻ではそれはほとんど進展しない。ときどきほのかな光のように意識しない記憶を見つけたりするがこれがヒントだ。話はある友人の冤罪を晴らすための活動に流れて行き、この冤罪事件の無実証拠をめぐる過去の捜索が、主人公の記憶を外堀から埋めるようなしかけだ。
それにしてもいつもにも増して大西巨人の筆致・文体は、公文書書類の如く精密で事務的であり、役所に提出するわけではないのだから、なぜそんなことをいちいち全部書くのか。文章芸術としての文学という意味では真逆の表現ではないか?と疑ってしまうが、これが実に読みやすく止まらない面白さがあるのが不思議で仕方がない。
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