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「東京の三十年」 田山花袋

読書
「東京の三十年」田山花袋 作
(岩波文庫)

11歳で初めて東京へ出てきた明治14年から数えて30年。大きく変わった街の様子。小説家として立つ野心を抱いて苦闘した青春。紅葉、鴎外、独歩、藤村ら文人たちとの交流を描く明治文壇史。

田山花袋は小説もさることながらエッセイが面白く、飾らない素直な人柄が表れて読んで心地がよい。当然作家としての瑞々しい感受性の持ち主だが、社会人としてはすこぶる常識的で温厚な人物で、芸術家風の奇矯で扱いにくいところなどはないようだ。

30年の間の都心の激変は高度成長期以上のものがあったのかもしれない。いわゆる江戸情緒というものが一切顧みられることなく壊されていく。昔の面影を見つけることが難しく、やがて電車が走るようになると近代都市東京の姿が完成される。

紅葉率いる硯友社から始まって、鴎外その他新たな動きや、対立する冊子とグループ。自然主義が花袋らによって完成されていくと思ったら、それもまた次の時代に乗り越えられていく。政宗白鳥の登場によって明治以前の風合いをまとった文学は完全に終わったという視点がおもしろかった。

「KとT」は親友国木田独歩と小説作品を完成させるべく、日光の寺へ泊まり込んだ数ヶ月のエピソードで、若い二人の友情が偲ばれて心温まる。その独歩も早くに亡くなり、後年40歳を超えた花袋が単身廃寺となった同じ寺へ泊まり込んで自炊生活をするところはやはり寂しい。

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