漫画家まどの一哉ブログ
「星の時」 クラリッセ・リスペクトル
読書
「星の時」クラリッセ・リスペクトル 作
(河出書房新社)
地方からリオへやってきた瘦せぎすで貧困な女マカベーア。不遇な身の上だが自身の不幸を意識せず、欲望も持たず、コーラとホットドッグで生きてゆく。ブラジル文学。
語り手は一人称で登場する男性作家ロドリーゴという設定で、語られるのがマカベーアという女性の生涯。「マカベーアは」「彼女は」という主語で彼女とその周辺が逐一見てきたように語られるが、本来それは物語の作者の視点だからこそ可能なはず。ところがときどき「ぼくは」という主語で語り手の作家自身の日常が顔をだすという不思議な感覚に当初とまどった。
主人公マカベーアはあるべき幸福を初めから知らないまま、無欲で与えられた人生を生きて行く人間。見かけも発言も薄く空気のような存在だ。一時の恋人や恋敵など、肉体的にも精神的にも欲望のままにエネルギッシュで虚妄にまみれた平凡な人間も登場するが、その正反対に思えるマカベーアにも案外実在感を感じた。ここまで極端でなくともこういう人間もいるものだ。そしてそんな彼女でも隠れている性欲は強いものがあるというのも、命あるものとしての納得感があった。
語り方の二重構造を気にしなければ、充分平易で素直に読める。マカベーアの人生は悲劇ではあるが平穏で、これは読み手が人生の基準をどこに置いているかで印象が違ってくる気がした。
PR