漫画家まどの一哉ブログ
「愛されたもの」
読書
「愛されたもの」 イーヴリン・ウォー 作
高級な葬儀社を舞台にしているという点で珍しい小説。しかも主人公の青年は対照的に安物のペット葬儀社で働いているのだ。この男が詩人でありながら、まことにいいかげんなヤツというところに、この小説が暗くならない最大の要因がありそうだ。高級葬儀社の化粧師の彼女が他の男と婚約しても気にせず交際を求めるし、彼女が絶望の果てに自死を遂げても悲しみもせず、イギリスへ帰国する費用の捻出に利用する。この西海岸の無責任男のノリの軽さが、この作品を風刺小説に仕立て上げているのかもしれない。
弔われる死者を美しく修復する化粧師の彼女は、世間知らずというのか、まだまだ男を見る目を鍛えていく最中だったのに残念な結果となった。過去の名作を自分の詩作のように語る例の無責任男。また師に当たる化粧師の主任にも結婚を請われ、家に行ってみるとまるでマザコン。彼女が頼った新聞の人生相談コーナーを受け持つバラモン導師は実は二人のライターで、しかも馘首寸前。
そんなふうに彼女を取り巻く男たちが、みな悪事を企むような陰湿な人間ではなく、本質的にいいかげんな連中ばかりというのが実際ありがちで、なるほど世の中とはこうしたものか、皮肉なもんだなと思って読めば作者の思うツボ。それが楽しい。
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