漫画家まどの一哉ブログ
「小川洋子の陶酔短篇箱」 小川洋子
読書
「小川洋子の陶酔短篇箱」小川洋子 編著
(河出書房新社)
新旧日本文学の中から珠玉の短編を選び、小川洋子が独自のエッセイをプラス。魅力マシマシのアンソロジー。
選ばれた短編のおもしろさはもとより、添えられたエッセイが単なる解説ではなく、作品の気になる部分を継いでさらに押し広げた小品となっていて、夢心地が覚めない感覚である。
「愛撫」梶井基次郎:猫を眺めて浮かんだ妄想を、実に綺麗につないで仕上げた硬質の短編。この仕上がりの格好よさはやはり著者ならではのもの。
「牧神の春」中井英夫:微生物の名前を呪文のように唱えているうちに半身が山羊となってしまった話。動物園でニンフと出会う。この作家がこんなに詩的で夢幻的だったとは。
「逢びき」木山捷平:戦後の物資不足の中、畑を作って懸命にやりくりする奥さん。くらべて復員したダンナの方はなんとものんきで、このダンナの逆らわない性格がほのぼのして良い。のんびりする。
「雨の中で最初に濡れる」魚住陽子:母娘共に、不思議なセールスレディの勧めるものを言われるがままに買ってしまうが、よかったよかったと言って喜んでいる。なにか浮遊感のある奇妙な現実が進行する。
「流山寺」小池真理子:死んだはずの夫が幽霊となって帰ってきた。嬉しい。妻はなんとかそしらぬふりをして、そのまま二人の生活を続けようとするが…。儚き熱愛が痛々しく迫る。
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