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「午後の曳航」

読書

「午後の曳航」 三島由紀夫 作

 

大人にとっての具体的現実とは経済的現実のことであるが、少年はこの経済的現実を肌身で知りようがないだけに、世界に対して観念的な全能感を持つ。そして中学・高校と進学していくにしたがって、自分の能力的限界を知ることになるのだが、三島文学で特徴的なのは主人公の少年が早熟な秀才であること。つまり周囲と比べても自分の限界を知ることがない。そして家庭が裕福でおそらくこの先人生で経済的限界を知る必要がない。これでは空想的全能感にブレーキがかかることがないわけで、逆の意味で世界をつかみ損ねる男になるだろう。

 

さてこの作品の少年たちは、海の男であることを捨て模範的な父親になるべく陸に上がった人物を、堕落した存在として処刑しようとする。ここでは少年は性的な意味ではまったく早熟でなく、理想とされる男性像は家庭を捨てて未知の世界へ挑む冒険家なのだ。主人公の少年が大人たちのセックスを覗き見るのは、男としての性的好奇心からではない。異性を省みない男性が理想としてあるのだ。

この理想的男性像が三島自身の理想的男性像であったということはなく、あくまで劇中の典型として設定されたものと思うが、なんとなく三島の好みそうなニュアンスは感じる。ここに三島の世界があって、こういった世界がヌメヌメ・テラテラした美文で絢爛豪華に展開されているので、読んでいると驚いたままくらくらとなってしまう。

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