漫画家まどの一哉ブログ
「走れトマホーク」
読書
「走れトマホーク」 安岡章太郎 作
「海辺の光景」や「質屋の女房」など以前楽しく読んだので手に取ってみた後期短編集。
著者あとがきによると50歳前後から小説の書き方が自然と変わってきたそうで、往々にして作家は歳をとるにつけ物語性から遠のき、身辺雑記的な作風に変わってゆくのが前から自分は不満なのだが、この短編集もそんな気がした。もともと自身をモデルとした私小説的な作風は変わらないが、やはり若いころのほうが面白かったようにおもう。
それでも人生に対して張りつめない、どこか投げやりな感じは相変わらずあって心地が良い。その投げやりな感覚の原因は子供の頃からの引越しと落第で、「聊斎私異」は落第を「野の声」は就活失敗を扱った短編だが、たかが落第くらいが一生のテーマになっているところが愉快だ。
たとえば「テーブル・スピーチ」は結婚披露宴の現場で、新郎である友人とのかつての様々な出来事を回想しているが、やや冗漫な気がして読んでいると突然人が死んだり狂ったりして、平凡な家庭の幸福をうすっぺらく感じてしまうというお話。結局作者は人生で成さねばならない平凡な暮らし方にも、どこか本気になれない虚無感のようなものを抱いていたのかもしれない。(講談社文芸文庫)
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