漫画家まどの一哉ブログ
「怪異考/化物の進化」
読書
「怪異考/化物の進化」 寺田寅彦 著
夏目漱石の弟子と言っても寺田寅彦は科学者であるから、これは物理学を基本としたエッセイである。極めて理知的で整然としていながら味わいのある文章で楽しい。もっと早く読んでみるべきだった。もっともちらちら顔を出す物理学の知見は自分のようなバカにはぼんやりとしか分からないが、それでも著者がなんとなくカオス理論的なことに触れているらしいことは気付く。例えば「偶然」ということについて繰り返し語られていて、ほんの少しの精子と卵子の出会いが違っただけでナポレオンは誕生せず、ヨーロッパの歴史は違っていただろうとか、宇宙から飛来する宇宙船が脳内を通過することによって偶然どんな影響を及ぼしているかも分からないなどなど。これこそ近年流行った非線形科学、バタフライ効果についての先駆的考察ではあるまいか。
そんなことは素人の私が深入りするまでもないが、人魂や鎌鼬(かまいたち)に関する科学的見解がおもしろい。なんでも高知県の海上には昔から不思議な地鳴りのようなものがあってジャンとよばれているのだが、これがこの地域の断層帯の運動によるもので、昔から何回かの大地震の頃頻発し、近年になって収まったのかその噂をきかないが、やがてまた活発化することもあるかも知れないなど、地震の情報に敏感になった現在読むとおおいに納得できるものである。
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