漫画家まどの一哉ブログ
「一九八四年」 ジョージ・オーウェル
読書
「一九八四年」 ジョージ・オーウェル 作
全体主義的未来の悪夢をきわめて正確に描いた傑作。私生活のすべてを党に管理・支配され、表面上の服従はおろか内心の自由まで徹底的に剥奪される洗脳プログラム。これがディストピアのお伽噺ではなく、今現在のわれわれの社会に即実行されそうなリアリティを持っているのが恐ろしい。
ザミャーチンの「われら」にほんのりあった芸術性は感じないが、その分全体主義社会に対する理解と認識が半端なものではなく、寓意や風刺というレベルを超えた迫真の背筋が凍る怖さがある。雰囲気優先で書いたようなあいまいなところがない。こんな大きな社会的テーマを徹底して計算された組立てで、あざとさもなく面白いストーリーに仕上げてあるのが信じられない。
途中反政府勢力のバイブルとして書かれた秘密文書がかなり長くそのまま記述されるが、エンターテイメントとしてはいささか苦痛なこの論文を乗り越えて読み進むと、ストーリーは絶望的なラストへ向かって急展開する。本編が終わった後に付録として、物語内で使用されていた言語体系「ニュースピーク」の言語学的分析があるが、ここまで架空の言葉に対して厳密に分析してその設定を楽しむのは、やはり小説と言う言葉を楽しむ分野ならではの仕業で、漫画家ではこうはいかない。
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