漫画家まどの一哉ブログ
「ポロポロ」 田中小実昌
読書
「ポロポロ」 田中小実昌 作
「ポロポロ」 田中小実昌 作
作者の実家は港町の丘の中腹にある独立系の教会で、「ポロポロ」というのは「パウロパウロ」のことだ。祈祷会の参加者は皆それぞれ勝手な、言葉にならない言葉で祈りをあげていたというから、かなり珍しい子供時代体験だ。
その子供時代の話は1編だけで、短編集のほとんどは戦争末期に出征した中国大陸での話。もっとも戦争はすぐ終わり、作者は1年あまり大陸で帰国を待つ身ではあったが、なにしろアメーバ赤痢やマラリアなど病気を抱えた栄養失調の兵隊で、半分は伝染病棟での生活だ。よく生きて帰ってきたものだ。死を覚悟するような悲壮感がまるでなかったそうで、切迫した考え方をしない楽天的な性格がよかったのかもしれない。
そのせいか作品としてはコクがないというか、虚無がないというか、ひょうひょうとしすぎていて、もの足りない感じはした。俘虜記はやはり古山高麗雄がオモシロイ。
だが作者は何を語っても物語になってしまうその嘘くささが嫌だったようで、ほんとうの行軍や病棟や戦友の死が、書いたとたんに物語となり、事実から離れてしまうことにいら立ちを覚えている。ひょうひょうとしているからと言って、この潔癖さ。なんたる真面目な人間かと思った。
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